借金問題で苦しんでいる方にとって、自己破産は人生をやり直す大きなきっかけとなるでしょう。しかし、誰でも無条件で自己破産できるわけではありません。法律で厳格に要件が定められていますので、場合によっては申し立てが認められないこともあります。
当記事ではその要件に焦点を当て、重要な3つの要件について解説しています。また、その要件が満たせない場合の対処法についても取り上げていますのでご確認いただければと思います。
自己破産制度の基本的な仕組み
自己破産とは、破産法に基づいて運用される、経済的に困窮した人々の生活再建を支援することを目的とした制度です。
「債務の返済をできなくなった債務者が裁判所に申し立てを行い、財産を清算(1)し、残った債務の支払い義務を免除(2)してもらう制度」とも説明できます。
(1)と(2)をまとめて「自己破産」と呼ぶのが一般的ですが、厳密には(1)の破産手続き、(2)の免責手続きの2つに分けられます。
| 破産手続き | 免責手続き |
| ・債務者の財産を調査し、換価処分する、清算の手続き
・債権者への配当を実施する ・債務者の財産管理処分権は制限される |
・配当後に残った債務の支払い義務を免除する手続き
・債務者の経済生活の再建を可能にする ・非免責債権(内容は後述)は除外される |
裁判所が「破産手続開始決定」を出すことにより、債務者の財産の換価処分、債権者への配当手続きが進行します。その後免責許可の審理が行われ、裁判所が「免責許可決定」を出すことにより、配当後に残った債務についての支払い義務が免除されます。
これが自己破産の基本的な流れですが、手続きを進めて免責まで受けるには次の3つが必要です。
- 債務の支払いが不能である
- 破産費用を予納できる
- 免責不許可事由がない
要件1:債務の支払いが不能である
自己破産の申し立てが受け入れられるには、「債務者が支払不能の状態にあること」が求められます。
債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
引用:e-Gov法令検索 破産法第15条
https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
「支払不能」とは、債務者が弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない状況を指し、一時的な資金不足などではこの要件を満たしたことにはなりません。
支払不能の判断基準とは
裁判所が「支払不能」を判断する際は、債務者の収入や資産、そのほか年齢・職歴・家族構成・健康状態などにも着目します。
具体的には、月収から生活に必要な最低限の費用を差し引いた残額で、月々の返済額を継続的に支払えるかどうかを見ます。月収35万円の会社員で、家族3人の生活費も月35万円の場合、月々10万円の借金返済を継続するのは困難です。このような場合は客観的に支払不能な状態にあると認められやすいです。
なお、この要件を満たしていることは原則として申立人が立証しなくてはなりませんが、「支払停止」という表明(明示や黙示を問わない)があるときは「支払不能」が法律上推定されます(法第15条第2項)ので、債権者等からの「支払い能力がある」との反証がない限りこの要件は満たすことができます。
要件2:免責不許可事由がない
破産手続開始決定が出されても、自動的に債務が免除されるわけではありません。上述のとおり破産手続きと免責手続きは厳格には別の手続きですので、破産ができても債務が免除されないがあります。
そしてこの免責許可を得るには、破産法で定められた免責不許可事由に該当しないことが重要です。主な免責不許可事由は以下のとおりです。
- 浪費やギャンブル、射幸行為による著しい財産の減少(パチンコ、競馬、FX取引など)
- 詐術による信用取引(返済能力がないのに借入れを行う行為)
- 債権者を害する目的での財産隠匿や破壊(預金の名義変更、不動産の仮装処分など)
- 破産手続きにおける説明義務違反や虚偽説明(財産目録への虚偽記載など)
- 過去7年以内の免責許可(破産制度の濫用防止)
- 破産管財人等の職務妨害(調査への非協力、資料提出拒否など)
以上の事情がある方は要注意です。
免責不許可事由に該当しても免責されるケースはある
免責不許可事由に該当する場合でも、必ず免責が不許可となるわけではありません。前提として、破産法では「裁判所は、破産者が免責不許可事由に該当しないとき、免責許可の決定をする」と定めており、原則として免責を行う方針が取られています。
そして「免責不許可事由に該当するとき常に不許可になる」とも定められておらず、実際、裁判所が諸般の事情を考慮して免責を認めることもあります。
免責不許可事由に該当したとしても、債務者の反省の程度、生活の改善状況、免責不許可事由の内容と程度、破産に至った経緯などを総合的に見て免責が認められる可能性はあるということです。浪費やギャンブルによる借金があったとしても、免責を受けることは十分に可能なので事前に弁護士に説明することが大切です。
そもそも免責できない債務もある
次に掲げる債務については免責許可の対象外です。
- 租税等の請求権(所得税、住民税、固定資産税、社会保険料など)
- 破産者が故意または重大な過失により他人の生命や身体を害した場合の損害賠償債務(暴行・傷害事件の被害者への賠償金など)
- 破産者が故意により他人の財産を害した場合の損害賠償債務(詐欺や横領による損害)
- 養育費や扶養料(未成年の子どもへの養育費、高齢の親への扶養料など)
- いらない
- 破産者が悪意で債権者名簿に記載しなかった債権(意図的に隠した債務)
- 罰金、科料(刑事罰として科される支払い義務)
これらは「非免責債権」と呼ばれ、要件を満たして申し立てた自己破産でも支払い義務が残り続けることに留意してください。
要件3:破産費用を予納できる
自己破産の申し立てには費用がかかります。手続きに着手する前段階で、あらかじめ費用を裁判所に納めなければならないため「予納金」とも呼ばれます。
この予納金の支払いができなければ破産手続きを開始することはできません。
金額は手続きの種類によって異なる
予納金の金額は、破産手続きの種類によって大きく異なります。
| 手続きの種類 | 適用される場合 | 予納金の目安 |
| 同時廃止事件 | ・「破産管財人が選任されない」「手続きが簡易迅速」であることが特徴
・処分すべき財産がほとんどない場合など、個人のする自己破産の多くに適用される |
数万円程度 |
| 管財事件 | ・「破産管財人が選任される」「詳細な財産調査と配当が実施される」ことが特徴
・原則的手続きであるが、個人の場合は多額の財産がある場合や事業を営んでいる場合などで適用される |
数十万円、100万円以上になることもある |
| 少額管財事件 | ・「破産管財人は選任されるが通常管財より費用が抑えられる」という特徴を持つ
・一定の財産があるが比較的少額で、弁護士が代理人としてついている場合に適用可能(ただし実際の運用は地方裁判所により異なる) |
最低20万円 |
同時廃止事件と管財事件で大きく異なるのは「破産管財人の選任の有無」です。管財人は破産財団(債務者の財産)を換価し、債権者への配当などを職務とする人物です。予納金の大半はこの管財人に対する手数料が占めていますので、その選任が費用に大きな差を生じさせています。
ただし、債務者が弁護士をつけていれば管財人の負担も軽減される関係から、一定要件を満たせば「少額管財事件」として比較的低額に自己破産ができるケースもあります。弁護士の利用が要件であるため弁護士費用も発生しますが、手続きへの対応にかかる負担が小さくなることや予納金が大きく減額できることから、少額管財事件が適用される利点は大きいと考えられます。
要件を満たしていないときの対処法
上記3つの要件いずれかを満たさない場合は、別の解決方法を検討しましょう。
まず「支払い不能に該当しないケース」では、任意整理といったほかの債務整理の検討が有効です。収支が安定していれば債務減額や分割返済が認められる可能性があります。
「免責不許可事由があるケース」でも、すべてのケースで免責が否定されるとは限りません。反省や改善の意思を裁判所に誠実に示すことで許可が得られる可能性もありますので、弁護士に状況を伝え対策を練ると良いでしょう。
「破産費用の予納が難しいケース」では、法テラスの民事法律扶助を利用し、分割払いや立替払いなどの支援を受ける道も検討します。可能であれば、破産費用が用意できるうちに債務整理の計画を立てるようにしましょう。
状況によって解決策は異なりますので、お一人で悩まず早めに弁護士へご相談ください。









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